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……き、きた。
今日この日をどれだけ俺が待っていたのか、事細やかに代弁できるやつは一人もいないはずだ。
あの学校に受かるのが中学の時に立てた最大の目標であり、それを成し遂げた合格発表の日、俺は隣にいた知らない男子と泣きながら握手をして喜んだものだ。
だけどその時、都心第三学区高校に合格したという実感は中々込み上げてこなかったなぁ。
でも、今は違う。
あと数歩、おそらく俺の歩幅なら二、三回足を踏み出せばこの我が家を出、都心第三学区高校の制服を着た猫崎 俊(びょうざき しゅん)が町中の人の目に映るわけだ。
そして俺はこんな目で見られるだろう。
『あ、あの制服は都心高校の』という尊敬のものに。
へへへ、にやにやが止まら……
「さっさと行きなさい遅刻するよばかっ!」
「だはぁっ!?」
は、鼻が、血、血ぃ出てないか血!?
「何すんだ母さん!」
「やられてみてわかんないの?喝入れてやったんだ」
「喝って! 喝って足から伝わるものなのか!?」
片足の裏をこちらに向けながら、両手を組むこの女性は、猫崎 理子(びょうざき りこ)。
結構暴力的な、俺の母だ。
「ぎゃあぎゃあ騒ぐの止めなさい。もっとドンと構えてこその男だよっ!」
「ドンと構えてるの、母さんだよ……」
「なよなよして一家の縁の下が勤まるわけないでしょ。
さぁ、さっさと靴履いて、これからお世話になる馬鹿共と元気にやってきなさい!」
おうよ。
新生活に気合いを入れて、最近買った新しい赤のスニーカーに足を滑り込ませる。
「ん? そんな洒落た靴、いつ買ったんだい?」
靴先をトントンと玄関の床に叩き付けてる時に母がそんな質問を投げつけてくる。
背中に背負ったスクールバックをもう一度担ぎ上げて調子を確かめ、その問いに答えた。
「母さん金くれなかったから、年玉で買ったんだよ。 じゃ、行ってきまーす」
少し矢継ぎ早に伝え、ガチャリ、と玄関の扉を開けてすっと外に飛び出した。
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