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「ったく、気を付けてね」
呆れた調子の声が後ろから聞こえた。 もう一度、心のなかで行ってきます。
今日は少し母さんのテンションが高かったな。 何だかんだで俺が高校に受かったことが嬉しかったのか安心だったのか。
「ん、なんか雲行きが怪しいなぁ……」
母はやっぱり母なのかな、と意味もわからない感慨を脳裏に浮かびあがらせながら外に出る。 すると真っ先に目に入り込んだのは、どんよりとした白色の空。
ところどころ雲の間に切れ目があり、その奥には青い空が見えているから雨具は必要ないか。
雨が降るなんて思いたくもない。 雨粒の入学式、聞くだけで気分が落ち込むぜ……。
「白い空っ、青い雲ー。
勇気を持ってランランルルール」
新しいアスファルトなのか、真っ黒な道を歌声を携えながら歩く。
足を出す度にカチコチになったものより若干柔らかい感触を足で感じる。
それにしても辺りを歩く人が皆傘を持っている……。
あやふやな列を作りながら、最早集まりというレベルの小学生たちは可愛らしい傘をランドセルに引っ掛けているし、スーツ姿の社会人も走ってはいるがその手にはやはり傘。
時たま見かける自転車は、後輪の横に傘が備え付けられてあった。
その雨の日の必需品である傘やカッパを持っていないのは、犬の散歩をしているお年寄りの方や俺ぐらいのものだった。
「い、いや! 雨が降ってたまるか。 雨の日に入学式なんて、やってられっかぁぁぁぁぁあ!」
不安感に煽られ、俺は思わず駆け出した。
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