恋の病

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 夢を見た。  クラスで一番可愛い子と、二人きりで下校する夢。  それが夢だと、すぐにわかった。  彼女とは一度も会話したことがなくて、その上通学路は校門を出た瞬間から別だ。  これが夢以外のなんだというのだろうか。  そもそも俺は、先日他校の生徒と喧嘩して昨日まで停学中だった。  下校するとかの問題じゃない。まず顔を合わせる機会がないじゃないか。  と、そこまでのことに気付いたのは夢から覚めた今で、そして割と肝心なところである下校中の会話の内容はさっぱり思い出せない。  所詮夢の事だから、と思えなくもないのだが、やはり気になりはする。まあどうせ学校に着いた頃には夢のことごと忘れてるだろうけど。  思いながら体を起こす。誰かに呼ばれた気がするのだ。  いや、家の中にいる今、俺に用があるのは一人しかいないんだが。  呼び声には適当に返事をして着替えを済ませる。今日から久々の登校だ。  しかし胸踊るとか、少し不安とか、そういうのは特にない。今日が土曜日だとか、昼過ぎには帰ってくるだとか、そんな些末なことは問題じゃない。  そもそも友だちと呼べる存在もいないし、だからと言ってたまに喧嘩して騒ぎを起こしている俺が虐められているわけでもない。  単純に、孤立しているわけだ。  もう一年以上そんな学校生活を送っているわけで、それも苦にはならない。  友だちがいないだけで、話す相手がいないわけでもないし。  ともなれば、俺は停学前と同じようにすればいいわけだ。 「よし!」  気合いを入れる。また何時絡まれるかわからない。その時のために。  部屋を出てリビングに行くと、すでに朝食が用意されている。 「ほら、早く食べないと冷めちゃうよ」  そして俺の特等席の対面にはいつものように姉がいた。 「わかってる」  素っ気なく答えてはいるが、普段から感謝している。  母は既に他界していて、父は仕事に明け暮れて家にいない。だからと言って家事をすべて一人でこなす姉を、誰よりも尊敬している。ただ、それを口にするのは気恥ずかしくて、なかなか出来ないが。  口にしなくても伝わればいいのにとは、毎日のように思っているけれど。  俺も座って手を合わせる。 「いただきます」  示しあわせなくても自然とハモる。  それを気にする必要もなく、それぞれに箸を取る。  食べながら、停学中に考えていたことについて、また考える。
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