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自らの重みに倒れないことがいっそ不思議な程に巨大な古木は、その老躯に似合わぬ可愛らしく新しい命――蕾をその梢に付けていた。蕾は今にも爆ぜ咲かんと、それこそ指で突けば花開きそうな程にその身を内側からぎちぎちと膨らませて時を待っている。
その古木の幹に身を預け、地にうねる根に抱かれるようにして腰掛けているのは、黒髪の青年――名をカブト=ウズノという――である。
腰掛けていると言うとやや語弊があるかもしれない。というのも、彼は日がとっくに登り始め朝から昼へと時を移そうとしているこの程に、古木の幹を背もたれにしながら目を閉じ、安らか且つ深く息を立て――有り体に言えば、幹に凭れて寝息なぞ立てているのである。鼻筋が透り整った顔立ちを飾る表情は、春の陽気そのままに穏やかだ。
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