昔話

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健は音が止んだような気がした。世界に自分達しかいないような気がしたが車は通りすぎていく。目の端では街路樹が揺れていた。星谷の髪が揺れていた。 星谷の瞳は揺れていなかった。 「…何を言って…」 「…斬鉄剣。あの力は私の物じゃない。あの男の力を形にして造り出したもの……あれがいつかは私の体を奪っていく」 「……」 健は星谷が全て受け入れてる事が分かった。そして同時に理解できなかった。彼女が助けたいと命を投げ出す覚悟が出来ていること、彼女が助けたいと願う男が彼女の為に命を投げ出す事。それが幼い頃から続く使命。 「…星谷さんは何をするつもりなんですか?水口さんに隠して、何を…」 守られるのが嫌いな彼女が何を目的とするかなんて健には予想がついていた。だが、確認し否定したかった。 「……私に何があっても継君と水口を助けて…」 星谷は慈しむように微笑んだ。 「何考えてんですか!そんなの…水口さんが許すはずないでしょ!?水口さんは何時だって星谷さんの側にいたのは…」 星谷は必死に訴える健を見つめていた。だが、言葉が遠退いていく。視界も。意識も。 昔話など格好いい物ではない。星谷はこの話が下らない過去だと思っていた。守れなかった。責任。懺悔。後悔。その全てを幼いながら感じた。 それなのに。 水口に求めてしまったもの。 それは最悪で最低な事。 「…!星谷さん!」 星谷の体はふらつくように倒れかけたが健が腕を掴み支えた。その瞬間、空気が揺れた。 大きな力が世界に響き渡るように震えた。 風で草木が大きく揺れ、鳥が一斉に飛び立った。建物の間に隠れ潜んでいたコウモリまでもが空に飛び上がり、歩いていた人々が空を見上げた。
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