昔話

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白鷺は水口の胸に何か文字か模様の様なものを書くように指を動かした。 「…ありがとうございます」 「…気にするな。たいしたことは出来ない。だが、アレはこんなに力をつけたか」 白鷺はポツンと呟いた。落胆、後悔、怒り、そのどれでもない。ただ事実を呟いただけの話し方だった。 「新、行くぞ」 幸村は笑いながら水口の体を掴んだ。また、あの飛び方をするのかと水口はうんざりしたが幸村の体にしがみついた。 「頼む、先生」 ※※※※※※※※※※ 色は屋敷の奥、自室に星谷を連れてきた。部屋には部屋の中央に一人がけのソファがあるだけで何も無かった。色は星谷をソファに座らせると彼女の頬を叩いた。 乾いた音が部屋に響いた。星谷はゆっくりだが瞬きをして、目の前にいる色をゆっくり認識した。 「なぜ、貴方が…」 星谷は辺りを見渡し、自身の手を確認するように何度か掌を開いたり閉じたりした。 「…お前の体を動かしていたのは俺の一部だ」 色は星谷の瞳が大きく見開いていくのを見つめていた。彼女の瞳はゆっくりと普段の大きさの瞳に戻った。 「そのまま私の体を奪えば良かったのに…」 部屋は静かだった。何処か隔離されてしまったように色と星谷の呼吸しかしなかった。窓一つ無い部屋は暗かったが色の赤い髪と瞳が明るくしているように星谷には感じた。 「お前の話が聞きたい…」 「…あの約束の確認?」 星谷は落ち着いていた。目の前にいるのが、継や水口、自身の人生を狂わせた人物がいるのに。今、あの時のように殺されるかもしれないのに。 「…俺が聞きたいのは昔話ではない」 昔話という言い方に星谷は先程まで一緒にいた健を思い出した。記憶が無い今、星谷には彼の安否も分からなかった。 「…俺が聞きたいのは今の話だ」 星谷は目を見開いた。
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