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春樹はあの日出会った力がただ漏れている事に恐れを感じた。周りを歩く人間は誰一人気づくことはない、大きな力の気配。 車は車道を通り、道歩く人はただ歩き続け。空も景色も何か変わることは無い。勘の鋭い動物だけが騒ぎ始めているが、ただの人間が気づくはずもなかった。 春樹は正直、彼らが羨ましかった。何も見えず、何も感じる事もなければ恐れを抱かない。それほどに恐ろしい気配が世界を包んでいたのだ。 「坊っちゃん、今連絡が来ましたよぉ。あちらも場所が確認できたので移動しますよ」 「あちらって父達ですか?」 「まぁ、こんだけ派手に漏れていたら分かりますよねぇ…お嬢さんも派手にやらかしましたねぇ」 神木は長い黒髪を後ろで縛った。相変わらず死んだ魚のような目だが彼なりに気合いをいれているのだろう。春樹は思い出したように携帯を取り出した。 「星谷達に報せないと」 「…いや、分かりますよ。こんだけ派手に漏れてんですからねぇ。それより車を借りないと間に合いませんよ?」 「あ!一人は大変だよね!早く駆けつけなきゃ」 春樹は辺りを見渡しレンタカー屋を探した。ホテルにへと戻っていた為、駅近にはレンタカー屋がいくつかあった。 「…坊っちゃんが先ならいいんですがねぇ、勝手に動いてお嬢さんを殺す輩も来るかもしれませんよぉ?」 「な、何で…」 春樹の問いに神木は答えなかった。答えるまでも無い。春樹には分かっていた。一夏が人間と妖怪の子供だからだ。 異端。恐れ。一族の恥。一夏に取り巻く物はそれしかない。それでも敵の懐に飛び込んで春樹達に知らせた。 「一夏は俺達を恨んでも良いはずなのに…何で…」 「坊っちゃん、それはワタシに聞くの間違ってますよ。貴方が直接向かい合ったらどうなんですかねぇ…半妖のお嬢さんと」 神木はレンタカー屋に向かって歩き始めた。春樹は直ぐに彼の後ろを追わなきゃいけないのに足が動かなかった。そして、ゆっくり空を見上げた。真っ黒な空は何も希望を抱かせなかった。
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