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携帯が鳴り、春樹は電話に出た。電話先は先程離れた健だった。春樹はやはり星谷達に連絡するべきだったと申し訳なくなった。
『今何処ですか!?』
健の慌てた声に春樹は落ち着かせるような声音で答えた。
「駅の近く。一夏の居場所が分かったからね、今から向かうことにするよ。星谷達も一緒に行く?」
『星谷さんが拐われました!もう、一夏さんの所にいると思います』
春樹は健の言葉を理解するのに数秒遅れた。そして目を見開いた。
「星谷が!?何で…取り敢えず、今からレンタカー借りるから沢田君は事務所で待ってて」
春樹は携帯を切ると前を歩く神木に声を張り上げた。
「神木さん!星谷が拐われた!急ごう!!」
神木はゆっくり振り返り頷いた。動揺もせず冷静な彼の態度はまるで分かっているみたいに思えた。
まるでこうなることを。
※※※※※※※※※※
健は切れた携帯電話を見つめ、深いため息を吐いた。吸って、吐いて。吸って、吐いて。落ち着かせるように。何度目かで健は胸の鼓動を確めて携帯電話をしまった。
「今から行くのー?」
「はぁ!?…ってマル!」
急に耳元で声がし健は振り返った。背後には姿を消していた使い魔のマルがいた。
「お前、何処にいたんだよ!星谷さんが拐われたんだぞ!?」
健はまた感情的になってしまった事に苛立った。何回も落ち着かせたのに彼の間延びした声音で台無しだった。マルはそんな健を感心するように見ていた。
「来てくれるんだぁ?ご主人達の問題だから行くの止めるかと思ったー」
「…それは、思うよ」
健はゆっくり目を伏せた。星谷から聞いた昔話。それは土足で踏み込んで良いものなのかと思うほどだった。だから、あの二人は昔から二人だったのだろう。
親、家族、友人にも頼らず。頼れず。妖怪と契約するように生きてきた。
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