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プロローグ――プランツェ
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昔々、今からずっと昔の話。
あるところに、ナレサという名の、それは豊かな国がありました。
不思議なことに、その国で生まれ育った人は、みんながみんな金髪と、翠の瞳を持っていた。
気味が悪いくらい、同じ色をしていたよ。
彼等の多くは、農業で生計を立てていた。
金の髪と翠の瞳で、農家なんてしているから、彼等は、周りの国の人々からは、古い言葉で植物を意味する、プランツェと呼ばれていたんだ。
別に、怒る人はいなかったよ。
プランツェ達は、自分達の仕事に誇りを持っていたし、逆に喜んで受け入れていたくらいだ。
だからかな、プランツェ達には、飢えているなんて一人もいなかった。
ナレサは、訪れただけでは、とても平和な国だった。
ナレサは、王政だった。
つまり、王様が国を仕切っていたんだね。
ナレサの王様達は、代々優れた才能を持っていて、国民から尊敬されていた。
リーダーシップも、考えもあったし、何より、国民のことを第一に考えていてくれたからね。
奴隷は禁止だったし、人殺しなんぞしようものなら、貴族だろうがすぐさま死刑。
飢えに嘆く人がいないのも王様のおかげだと、神様のように崇めていた。
でも、今の王様には、長年跡取りとなる王子が生まれなかった。
息子はいたんだ。
ただ、王様になるには、ある証が、必要だったんだ。
証……それは、銀色の髪と瞳を持っていること。
王様の一族には、一代に一人だけ、王様の息子のうちでも一人だけが、その証を持って生まれる。
次期国王以外の子供は、プランツェと同じ姿をしている。
……お気づきかな?
この息子――オルトという名だ――も、そうだった。
長男だけに、期待は大きかったのにね。
見事に皆を裏切った訳だ。
他の王族は血が薄れてきたのかと心配していた。
彼が生まれて六年、王様に子供が出来なかったから、オルトが次期国王となるのだと、本人すらそう思っていた。
そんなナレサに、一大事が起こってしまった。
正式な跡取りが生まれたんだ。
彼を見た人達は、皆驚いた。
なんと、彼は髪と右瞳こそ銀色だったが、左瞳だけは、どうしてか翠色だったんだ。
現王様の父、つまり王子の祖父は彼を抱きこう言った。
「この子は……神と民、双方の声を聞く者だ……!」
王族は一安心だね。
異端は、裏返せば信仰の対象となる。
奇形児然り、自閉症児然り。
人間とは、全く勝手な生き物だ。
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