プロローグ――プランツェ

2/2
前へ
/78ページ
次へ
彼も、王族という盾で護られていなかったら、その辺に捨てられ、鼠にでもかじられていただろうよ。 ……まあ、その姿も少し見てみたくはあるがね。 神は、リューチェと名付けられた。 光という意味だ。 魂胆見え見えの馬鹿らしいネーミング。 頭の薄さが、手に取るように分かるね。 彼等にとってみれば、リューチェは神以外の何物でもなかったんだけど、彼はあくまで人間だ。 過信ほど、人を堕とすものは無い。 自分達の無闇やたらな、神に教えを乞うが如くの過剰な期待と信頼とかいうエゴイズムが、彼を人間ですら無くならせるなんて考え、彼等には一片も無かったんだよ。 言うなれば、「悪気は無かった」ってところかな。 彼の最も不幸なところは、堕ちていく様を、誰にも見せなかったことだね。 おかげで、彼がもう人間で無いと、気付く者はほとんど存在しなかったんだから。 ……と、突然こんなに未来へ飛躍してしまってはいけないね。 せっかく生まれたリューチェ王子だけど、生まれてから四~五年程、その姿が国民の前に出されることは無かった。 ある程度成長した時、貴族の目に初めて触れた。 貴族達から貴族の使用人に伝わり、使用人達から一般のプランツェ達に、その姿が知れたんだ。 初御披露目から一年も経たないうちに、リューチェは、今度は皆に知れた存在になった。 民は、口々にその可愛らしさと賢さを噂する。 さて、前置きはこれくらいにしておこうか。 そろそろ、彼も自我を持ち始めた時期だ。 彼と、彼の周りの人生を、それぞれに沿って見てみようじゃないか。 主要人物は、全部で四人。 黒髪の悪魔に、期待外れの兄。 婚約者……それから、銀の髪の人形だ。 彼等は、どんな人生を歩むのだろうねぇ。 先が、非常に楽しみだ。 愚かな人間達は、最後に何を見るのだろうね? .
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加