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一幕――光の王子
リューチェ――
「リューチェ様、まだネクタイをつけていませんよ。……ほら、少しじっとして」
「だって~、今日は兄様の誕生日だよっ。い~っぱい人が集まるんだよ。はやく行きたい~。ネクタイなんていいじゃん」
「“じゃん”なんて言葉、次期国王となられる方が、使ってはなりません。それに、ネクタイもつけずに大勢の前へ出るなんて……。もう少し、この国の王子であるという自覚を持ってくださいな」
「ふんっ。自覚なんかくそくらえ!」
「リューチェ様!!」
真っ赤な顔のチュメルにあっかんべえをして、僕は部屋を飛び出した。
当然、ネクタイはしていない。
……どうして、みんなあんなものにこだわるんだろう。
言葉遣いとか、服装とか、髪や瞳の色とか。
ちゃんと中身を見ないと、相手のことなんて何一つ分からないのに。
父様は、いつも大臣さん達には厳しいけど、僕には優しくしてくれるし、兄様だって、王様の証は無いけど何でも出来るし、学校でもいつも成績は一番だって、王族の誇りだって、叔父様が言ってた。
僕だって、次期国王とか、会う人会う人に言われるけど、僕自身それにすっごく執着してるんじゃないし、正直、兄様の方が向いてるんじゃないかと思ってる。
今日の主役、オルト兄様は、僕より六歳も年上の王子だ。
僕が今年で八歳だから、兄様は今日で十四歳。
すっごい大人で、すっごい格好良い。
父様の次に、憧れている人。
本当は、いっぱい兄様に話したいこととか、聞いてほしいこととか、あるんだけど……。
スピードを落とさないまま角を曲がると、大きいものにぶつかって、僕は思いっきり尻餅をついた。
「ったぁ~」
「また場内を走り回って……ほら、立ちなさい」
父様と母様だった。
手を差し出してくれたのは、母様だ。
「……リューチェ、ネクタイは?」
ぎくりっ
母様の碧色の瞳が、僕を逃がすまいと見つめる。
「だって……あれつけてると、首のとこ苦しいんだもん」
「リューチェ!!」
やっぱり怒った。
母様は美人なんだけど、怒るとめちゃくちゃ怖い。
目がキューーっとつり上がって、蒼い瞳が、ふちから赤くなる。
いくら綺麗でも、父様がどうして母様と結婚しちゃったのか分からない。
きっと、二人がケンカしたら、母様の圧勝だ。
そういう時、父様でも泣いたりすることあるのかな……。
そんなこと考えてる場合じゃないと、僕はそこでやっと気付いた。
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