一幕――光の王子

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母様の顔が、真っ赤になっていた。 「ごめんなさーいっ」 雷が僕の真上に直撃する前に、父様と母様の間をすり抜けて、逃げる。 母様の声が追いかけてくるけど、気にしない。 行っちゃえば良いんだ。 先にみんなに見られてしまえば、こっちのものだ。 階段を下って、廊下を走って、何度か召使いに止められたけど、見えなくなったらまた走って、僕はパーティ会場の庭に出た。 光が、ざあっと目の中に入って来て、少し痛かった。 何度かまばたきしていると、段々目が慣れてきて、景色が見えるようになった。 「うわ……凄い」 若干引いてしまうくらい、庭は人と様々な色で埋め尽くされていた。 男の人は灰色か白くらいしか無いのに、女の人達は、どぎつい原色のドレスを着て、アクセサリーをじゃらじゃら付けて、頭が大きく見える髪型をしている。 ああいう格好をおしゃれだと思っているから、女の人って変だと思う。 僕、女の子じゃなくて良かった。 たくさんの人が集まっている中で、一際色が密集しているところがあった。 人と人の間を抜けてそこまで行くと、輪の中心に、正装した兄様の姿があった。 カラフルな女の人達からの似たようなお祝いの言葉に、丁寧に頭を下げている。 嫌な顔一つしないで、凄い。 「リュ……リューチェ様!?」 輪の内の一人が、僕に気付いた。 それを合図に、次々と人々が僕に顔を向け、驚いた顔をした後に、道を空けてくれる。 僕はその道を進んで、兄様の前に出た。 視線が気になるけど、今言えなかったら、今日一日言えず終いになりそうだったから、何も気にしてないって顔して、兄様に話しかけた。 「ハッピーバースデー、兄様。十四歳、おめでとうございます」 「あぁ……」 兄様から返ってきた答えは、これだけだった。 僕の言葉の後に、ちらっとだけ僕を見て、すぐ目を逸らす。 寂しいけど、兄様の気持ちも分かるから。 僕が兄様だったら、返事もしないと思ったから、一言の返事を、嬉しいと思うことにする。 僕と兄様には壁があるなんてことには、とっくに気づいていた。 「リューチェ様、ご機嫌いかがですか?」 「悪いわけありません。なんてったって、兄様のお誕生日ですから」 「そうですか。良かったですわ」 手を振って、輪の人達と別れる。 あの人達の話はみんな一緒で、長くて、退屈なだけだから。
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