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「ハッピーバースデー、兄様。十四歳、おめでとうございます」
無邪気で、無垢で、まっさらな笑顔。
ネクタイをつけずとも、本気で咎められないのは、この笑顔と、髪と瞳があるからだ。
「あぁ……」
オレは、こいつの前では、他に誰がいても笑えない。
こいつを恨むのは、筋違いだ。
それでも、恨まずにはいられない。
オレと違う二重の目が、光の具合によって蒼みがかって見える左の瞳が、えくぼの無い頬が、オレの苛立ちを掻き立てるのだ。
純血のくせに、雑種に負けたのかと、周りが目で言っているのが、分かるのだ。
現に、オレには欲に目を輝かせて寄って来る連中が、リューチェには道を開ける。
神と人間の差。
成功作と、失敗作の差。
嫌みな程自然に、それを見せつけてくる。
屈託の無い笑顔と、王の証をもって。
周りと軽いやりとりをして、去っていく。
小さな体は、すぐに人ごみに紛れ、見えなくなる。
目立とうにも、まだ体格が小さくて、レースやらフリルやらばかりの服に重なってしまって見えない。
「リューチェ様って、まるで天使のようよね」
「快活で、可愛らしくて。これで、国も安泰だわ」
笑いが、さざ波のように広がっていく。
リューチェが出て来たことにより、場が和んだ。
リューチェだからなのか、それとも、子供というものは、全てこんな働きをするのか。
「オルト様も、そう思いませんこと?」
私、本当のことを言っているだけですのよ?
そんな笑顔だ。
「そうですね。リューチェが国を治め、私が戦を制すれば、この国も更に繁栄するでしょう」
「頼もしいですわ。流石、次期国王の兄上様」
爽やかな笑顔で、こちらも答える。
皮肉と皮肉の応酬。
こんな生活を望む一般人達は、一体どんな頭をしているのだろう。
理解に苦しむ。
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