#00 始

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夏が過ぎてまだ暑さの気だるさが残る秋の始め。 俺はあの店の存在を知る一員となった。 あの店を知らなかったあの頃の俺は心も体もカラッカラに乾いていた。 何に対しても興味も関心も持てなくて他人が傷付こうが全然平気で、自分を守ることに必死で、もろい自分を隠すことが第一で、誰も信じられなくて傷つかないように殻にこもって身を縮めるしかない何もない透明人間だったんだ。 そんな俺の殻を破って色を付けてくれたのはあの店にいたあの人たち。 気分が良くなくて不機嫌なときも、嫌な事ばかりで心底グレてるときも、それでいいと、そんな奴でいいと、言ってくれた。 ただ当たり前のように存在し、どんな話もちゃんと聞いてくれたあの人たち。 今はもう俺がその店を見つけることは出来ない。 でも、確かにあの店はどこかで存在し続けている。 またどこかで疲れてへとへとになった心を持ったどうしようもない人間をあの強引さで元気にしているんだろうな。 これから語る話は俺がまだ高校生の頃のこと。 ムシャクシャしてケンカふっかけて返り討ちにあってふてくされていたときのこと―――――。
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