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色とりどりの花が咲き乱れる丘。甘い蜜(みつ)の香りに包まれて、羊たちがのんびりと草を食(は)む。その羊たちの足元に目を移すと、桃色の美しい髪をした青年がすやすやと眠っていた。
新しく芽吹いたばかりの草のように柔らかな雲を浮かべた青空に、赤い球体がぷかぷかと浮かんでいる。球体いっぱいについた大きな一つの目玉が、遠い丘の上に眠る青年を眺めて目を細めた。
「今日も春の国は平和だな」
赤い目玉を通してイリスの姿を見たウェルは、満足げにため息をついた。今、ウェルがいる木の上は、イリスの眠る丘よりもずっと離れた山の上である。時折(ときおり)首飾りの目玉を使って下界の春の国の様子やイリスの姿をこっそり眺めるのが、ウェルの楽しみであった。
「しかし、イリス様は、本当に気持ち良さそうにお眠りになる……って、おい、そこの羊! 邪魔だって!」
羊の群れがイリスの周りを取り囲み、赤目玉からイリスの姿が見えなくなってしまった。ウェルはなんとかイリスを見つけ出そうと、赤目玉のズームを最大にして目を凝(こ)らした。
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