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 彼女の第一印象は、そこまで強くなかったと思う。明るくて、おっちょこちょいで、料理が得意で、笑った顔が可愛らしい、ごくごく普通の娘。その印象は、結局今も変わっていない。  対して自分は、彼女に比べれば少し変わっていたのかもしれない。皮肉屋で、腹の底を見せたがらない秘密主義で嫉妬深い、ちょっとすれたガキ。  しかしながら、それでも自分は「普通」の枠から外れておらず、さりとて印象に残る人間ではなかったはずだ。大学ともなればもっとキャラの濃い人はいっぱいいるし、人間関係の幅も広くなる。毎日のように一緒に講義を受け、学食でお昼を食べる親友みたいな立ち位置もいれば、グループワークでたった一度だけ共に作業をした仲、それもまた一つの関係だ。たまたま一緒になった、そこからより親密になっていくパターンもあるが、自分はそのテの「人間関係の開拓」が苦手で、薄い薄い関係をあっちこっちに引っ付ける、中途半端な人間だった。  だから、これは偶然の連鎖で起きたことだ。彼女が自分を見つけたのも、仲良くなったのも、  彼女にどうしようもなく惹かれていったことも、よくある運命の悪戯だ。  その気まぐれが作った人生の上に立って、歩いて、今も歩き続けている。傍らには、陽だまりのように輝く想い人。  自分は、あの娘に依存している。鳴嶋 好希(なるしま よしき)の人生の全ては、彼女のためにある。そう自覚し決意し絶望したのは、つい最近のことだ。
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