桜の記憶

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にっこりと笑った少女-リルは、元気いっぱいうなずくと男の袖をぐいぐいと引っ張ってきた。 何かを見せようとしている。 なんとなくそうわかったので、男は促されるままに腰をかがめ、リルが指差す先に視線をやった。 それは、花弁に埋もれた小さな芽だった。 桜の、薄く軽やかな花弁にさえ耐えられないとでもいうように、大きく首を垂れてしおれかけている。 珍しいものではない。花はいずれ枯れるのだ。 何が言いたいのかと男はリルに視線を送る。 ところが、リルは再びにっこり笑い、花に向かって話しかけ始めた。 『だぁいじょうぶ、だぉ。りる、に、まかちぇて!』 ろれつの回っていない小さな口を近づけ、そのまま桜を散らすように息を吹きかける。 ふぅ………ー、と 優しく吹きかけられた息に、…なんということだろう。 しおれかけていた芽の周囲からは桜が取り除かれ、見る間に瑞々しく、芽が花開いたのだ。 何が起きたのかと目を丸くする男はそのままに、少女は辺りを見回し、しおれた花をみつけては同じ動作を繰り返す。 薄紅色に包まれた丘。 先程までも、充分に美しかったはずだ。 なのに、確かに今広がる光景は、先ほどよりも彩り豊かに、鮮やかになっているのだ。 妖精、の意味をなんとはなしに理解した男は、ある仮説に希望を抱いた。 これならば。 この力があるならば、彼女の夢を叶えられるかもしれない…!
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