桜の記憶

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「リルちゃん。お願いがあるんだけど、聞いてくれるかな?」 突然かけられた声に、リルはきょとんと眼を丸くした。 だが、ゆっくりと言葉の意味を理解したのだろう… ぱっと、それこそ花開くように笑って、大きく頷く。 『りる、おねがい、かなえてあげりゅー!!』 「本当にー?助かるよ☆じゃぁね、説明するから良く聞いてね……」 男は言った。 満開の桜を、彼女に見せてあげたいんだ、と。 だから、秋の国にある桜の大木を、開花させてほしいのだと。 意気揚々と話を聞いていたリルは、途中から地面にくずおれ言った。 それは無理だ、と。 「なんでー!!?さっきできてたじゃん!お花咲かせてたじゃん!」 『う、うえぇぇ……りるはのはらのよぉせいだから、き、はむりー』 「何それー!!」 がっくり。 二人並んで膝をつく。 少し肌寒いような、春の夕暮れの風が一層無力感を感じさせた。 とはいえ、幼い少女に無理を言っても仕方がないし、元々ダメ元な提案だったのだ。 男は気を取り直すと、 「まぁうん、いいや!椿ちゃんを喜ばす方法は何か別に考えるから!ごめんね☆」 とリルの頭をなでて立ち上がった。 「これ以上いると、秋に行くのも遅くなっちゃうし…僕、もう行くね。スゴイもの見せてくれてありがと~妖精さん☆」 『う、うぅん…りる、おねがい、きいてあげらぇなくて…ごめんにぇ』 「え?いやいや、べつに…」 『…ううん!やっぱりりる、がんばりゅ!さくらしゃんにおねがいちてくりゅ!ちょっとまっちぇて!』 「え!?いや、だから、僕はもう行くって」 『まっちぇてー!!』 「はい。。。。。」
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