桜の記憶

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春の国に咲く花は、国外に持ち出せば枯れてしまう。 秋ならまだ涼しいから保つ時間は長いが、基本的に国と国との気候が違いすぎるのだ。枯れるのは当然の理だ。 けれど、枯れた花を蘇らせるようなリルの『力』を注がれた花は、きっと冬の国でも美しく咲き続けるのだろう。 男の手元の桜は、不思議な結界にでも守られているかのように輝いていた。 「ありがとうリルちゃん!」 『あい☆さくらさんは、ちょこっとしかもたないんだぉ!だから、はやくはやくね~!!』 「うんわかった!じゃあ急いで行ってくるよ。ありがとうね~!!」 男は輝く桜を一枝大切そうに抱えると、満面の笑みで去っていった。 あまり人間と関わることのなかったリルは、寂しいのか男が見えなくなるまで手を振りつづける。 だがやがて空が薄紫に染まり、すっかり姿が見えなくなるとようやく手を振るのをやめて、花々の手入れに戻っていった。 その後、男が持ち帰った桜がどうなったのかはわからない。 それはまた、別の話―…。
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