プロローグ

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『相談お受けいたします』 それだけ書かれた貼り紙は、そろそろ貼り替えなければならないようだ。 優しいそよ風にさえ、飛ばされそうになっている。 しかし……今日くらいはお客さんの1人や2人、いてもいいのではないか。 心の中でそう思いながら、貼り紙から目を逸らして玄関のドアを開けた。 「おはようございます」 靴を脱ぎながら、挨拶をする。 ドアを開けると廊下はなく、すぐに広い部屋が見渡せる。 「おはよう、まな」 いつもの調子でニコニコして、教授はあたしに挨拶を返す。 「はよー」 教授の座っているソファーと、テーブルを挟んで向かい合ったソファー。 そこに仰向けになって寝ている小野寺君は、ひらひらと手を振る。 あたしは、鞄をソファーに立て掛けて教授の隣に座る。 「相談……来る予定ありますか?」 一応、教授に尋ねてみる。 予想通り、即答でノーだった。 あったのなら、こんなにのんびりしていないよね。 あたしはため息を吐いた。 「そうだ。 まなも来たことだし、私の話を聞いてくれるかね?」 教授が長い前髪に半分隠れている二重の目を、あたしと小野寺君に向ける。 「……いいですよ」 「そうか。……サト君、サト君、いいかい?」 あたしが返事をすると、アイマスクをしている小野寺君に教授が呼び掛ける。 寝ているんじゃないかな。 そう思った時、小野寺君はアイマスクを首まで下げて、ゆっくりと起き上がった。 眠たそうに目を擦る仕草をすることなく、がしがしと真っ黒な髪をかく小野寺君。 教授は嬉しそうに微笑み話し始めた。
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