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山瀬克己だった彼女はここにいる。しかし山瀬克己という社会的生物は殺された。そして記録上事件の加害者はひょっとこ面を被った俺ということになる。
“山瀬克己殺害の罪を被る事”
これが二月の事件の真因だ。ひょっとこ面の男は以降山瀬克己の行方を知る重要参考人として警察に付け狙われる事になるだろう。
「面越しとはいえ、あなたは尋ね人になったわけです」
「そうだな」
「そこまでしてあなたがあの組織に従う理由はなんです?」
「……あー、うん」
彼女はjudeccaについて多くを知らない。だから適当に誤魔化すのは簡単だ。借金の為と嘯いても良いだろう。
「葛城杏奈っていうバカがいてさ」
それでも俺が杏奈の事を話したのは、きっと春の陽気のせいだろう。
杏奈は持ち直した。
肺炎と肝硬変を併発し、一時は生死の境までさまよったものの、彼女は此岸の淵に帰ってきた。DDの用意した腕のいい医者と適切な治療のおかげではあるが、そこに杏奈自身の意志があったのだと、俺は信じて疑わない。
葛城杏奈は眠っている。それでも彼女は生きている。だから。きっと。
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