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何事も無かったかのように。
まるで昔の笑い話でも語るかのように、淡々と笑顔で述べる小太郎君の姿に、寒気を感じた。
そんな簡単なことじゃなかった筈なのに。もっと彼の人生は、壮絶で、悲惨なものだったに違いないのに。
「小太郎君は……」
「あ?」
気が付けば、
「小太郎君は、何故【壊し屋】なんてやってるんだ?」
頭で考えたわけでもないのに、自然と口からそんな言葉が出ていた。
「それしか道が無かったから」
対する彼女は、変わらぬ笑顔のまま答えた。
その潔さに言葉を失った俺を見て、小太郎君の笑みはますます狂喜に満ちていく。
「おにーちゃんは、小学校に行くとき、何か思惑があったか? 中学校に進学するとき、何か理由があったか? 無ェだろ? それと同じだ」
「同じなんてことは無いだろ」
「あるさ。学も無ェ、金も無ェ、頼れる身内もいねェ。そんな丸腰のガキが生きてくにゃあ、」
そう言って、小太郎君は急に身を乗り出し、俺の首を右手で鷲掴みにしてきた。
「――もうコレしかねェだろうに」
「……っ」
避けれる距離だったし、避けれるタイミングだった。
だけれど、俺は避けなかった。
避けることが出来なかった。
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