【第二話】

50/97

3444人が本棚に入れています
本棚に追加
/175ページ
何事も無かったかのように。 まるで昔の笑い話でも語るかのように、淡々と笑顔で述べる小太郎君の姿に、寒気を感じた。 そんな簡単なことじゃなかった筈なのに。もっと彼の人生は、壮絶で、悲惨なものだったに違いないのに。 「小太郎君は……」 「あ?」 気が付けば、 「小太郎君は、何故【壊し屋】なんてやってるんだ?」 頭で考えたわけでもないのに、自然と口からそんな言葉が出ていた。 「それしか道が無かったから」 対する彼女は、変わらぬ笑顔のまま答えた。 その潔さに言葉を失った俺を見て、小太郎君の笑みはますます狂喜に満ちていく。 「おにーちゃんは、小学校に行くとき、何か思惑があったか? 中学校に進学するとき、何か理由があったか? 無ェだろ? それと同じだ」 「同じなんてことは無いだろ」 「あるさ。学も無ェ、金も無ェ、頼れる身内もいねェ。そんな丸腰のガキが生きてくにゃあ、」 そう言って、小太郎君は急に身を乗り出し、俺の首を右手で鷲掴みにしてきた。 「――もうコレしかねェだろうに」 「……っ」 避けれる距離だったし、避けれるタイミングだった。 だけれど、俺は避けなかった。 避けることが出来なかった。
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3444人が本棚に入れています
本棚に追加