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―――――。
そんなこんなで、鴉麻小太郎君とのある意味貴重な共同生活が続くこと、数日。
基本的に天邪鬼な小太郎君の相手をするのに骨が折れたり、意外と一般常識に疎い彼女に教養を叩き込んだり、二人分の食費がジワジワと俺の家計の首を絞めて行ったりと――まったく、口にするのも億劫な程、実に充実した日々であった。
殺人犯と、それを匿う共犯者。およそ穏やかではない組み合わせの二人だったとは思うが、それなりに大きな問題もなく生活することができたと自負している。
兎角、『疲れた』と一言で全ての説明が済んでしまうような薄っぺらい日々を、今更事細かに語る必要はないだろう。
それはまた機会があれば、だ。
ともあれ、時は流れて、小太郎君と遭遇して丁度一週間目の朝。
早朝、7時を回った辺りの頃。
何の因果か、俺は再び【憤怒の区】こと【南区】に足を踏み入れていた。
「…………」
冬の朝特有の爽やかでありながら厳しい寒さの中、マフラーで顔の半分を隠し、黙々と足を進める。
"目的地"は、最寄のバス停から、徒歩3分。分かりやすいので、迷う心配もない。
ハァ、と白い息を漏らし、ポケットの中の【1枚の紙】を取り出してみた。
――――――
鴉麻小太郎について話がある。
明日の午前7時半。
【南区】のホテル・ヴィーゴで待つ。
一人で来い。
――――――
それは遡ること一日前。
バイトから帰宅し、郵便受けを覗いてみると、このような要点だけ綺麗にまとめられた実に分かりやすいラブレターが、乱雑に捻じ込まれているのを発見したのである。
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