【第二話】

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勿論、こんな素っ気ない呼び出し、素直に応じてやる義理なんざ欠片もないが、だからと言って内容が内容なだけに、無視を貫くのも寝覚めが悪い。 葛藤の結果、幸せそうに涎を垂らしながら熟睡している小太郎君に、軽いメモ書きだけを残して出発。 大人しくラブレターに指定された体育館裏―――もとい、【南区】まで足を運んでやったというわけだ。 「……っと」 そうこうしている間に、目的の場に到着した。 目の前に聳えるのは、巨大な塔のような建築物。 流石にDDの城程ではないが、それでも見上げ続けると、首が悲鳴を上げ始めるに違いない高さだ。 ――ホテル・ヴィーゴ。 【南区】でも一際目立つ、今時珍しい高層型高級ホテル。 外装も内装も豪華絢爛。 サービスも非常に良好。 文句なしの一流宿泊施設。 しかし立地区域が【南区】のため、一般の利用客は極僅か。 それでもこのホテルが経営難に陥らないのは――"そういう方々"御用達御贔屓のホテルだからだろう。 困ったもんだ。 いや、困らないんだけどさ。 朝も早くから待機しているドアマンにエスコートしてもらい、中へ。 煌びやかな内装に一瞬目が眩んだと思ったら、次の瞬間には、頂上が遥か高い吹き抜けのホールが目の前に広がっていた。 気分はまるで、異世界にでも足を踏み入れたかのよう。
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