【第二話】

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――鷹峰会。 予想はついていたが、やはりそうか。 「……沢木京介だ」 名乗りながらも、小太郎君と初めて出会った時のことを思い出す。 鷹峰会――間違いない。 彼女が言っていた暴力団のことだ。 彼女に依頼し、彼女を裏切り、彼女からその報復を受けた組織。 「沢木さん。まずは、貴方をこちらまでお呼びするような形になってしまったことを、お詫び致します」 背広の男――改め江本は、深々と頭を下げたきた。 「何分、沢木さんのお住まいは中区――【中心街】でしたので」 「…………」 「あの区はこの鞍柘市において、唯一何色にも染まらない空白の区域。どの区からも決して干渉されず、他区域の人間は【中区】に事件を起こしたり、必要以上の干渉をすることは許されない」 鞍柘市における永世中立の区。 他の区とは明らかに違う異色の場。 "特色がない"。 "何でもない"。 "何もかもない"。 ――それ故に、外部の何処からも干渉されない。関わられることがない。 敵もいなければ味方もいない。 中立とはすなわち、孤独。 それはまるで、存在していないかのように。 「"この鞍柘市には共通のルールはない。しかし、守らなければならない約束事はある"――そうでしょう?」 「……あぁ、そうだな。ご主人様が、ちょっと前にそんなこと言ってた気がするよ」 「中区への不干渉の原則は、まさしくそれに含まれています。ですので、南区に属する私達が、中区に在住する沢木さんをお話しするには、こうして呼び出すという形でしか―――、」 「なぁ」 躊躇なく、遮る。 江本の言葉を。紙みたいに薄っぺらい言葉を。 「――こちとら貴重な惰眠の時間を削って、眠い目擦りながら出向いてやってんだ。余計な前置きはいーから、さっさと本題に入ってくれねーかな」 「…………」 「それとも、俺に途中で居眠りしろとでも言うのか?」
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