【第二話】

63/97
前へ
/175ページ
次へ
「馬鹿げてる……ですか」 俺の辛辣な評価にも、江本はそう言って軽く肩を竦めるだけだった。 「勿論、私としましても、鴉麻万凶が常軌を逸していることくらい理解しています。ですが、それでももう後には退けないのですよ」 「何……?」 「沢木さん。この鞍柘市に進出するということは、我々の世界においてはまさに至高の目標。この街は、夢に見る聖地なのです」 確かに、組織の"ハク"や存在感を何よりも重視するのが暴力団というもの。 日本の中心であるこの鞍柘市で勢力を付けるということは、日本全土の同業者に対するアピールになることだろう。 「そして我々鷹峰会は、長年の下積みの末、最近になってようやく【南区】に事務所を構えることができました。あとは、この区で実力と行動力、存在感を示し、地位を不動のものとするだけ……。そこで目をつけたのが、あの鴉麻万凶です」 次第に、江本の顔に仮面のように張り付いていた笑顔が消えつつあった。 「南区で、たった一人で名を売る実力者。そんな人間と友好なビジネス関係を築き、巧く扱えるようになれば、覇権を取るのも夢じゃない。そんな考えの下で、奴に依頼を頼んだのですが――――、」 "一体何なんですかアレは"   
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3444人が本棚に入れています
本棚に追加