【第一話】

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【静の早乙女】 【動の天堂】 【間の真武湯】 日本経済を牽引する財界の御三家の一角にして世界でも有数のコングロマリット企業である早乙女グループの賛同は、【街づくり】の大きな追い風となった。 特別行政区のネックとなるのは、一にも二にもカネである。 優秀な人材の確保、魅力的な研究機関の開発、知的財産管理と技術移転システムの確立、自由な企業競争を誘発するインセンティブの設定……。 幾ら行政特区が自由を謳おうと、どれだけシステムが優れていようとも、それに手を(カネを?)貸してくれる貸し手がいなければ、それは価値無き空論。 首脳達の『絵に描いた餅』を実現する為には莫大な資金が必要だった。 しかし、国内の財政はいっぱいいっぱい。びた一文だって無駄に出来ない。 『資金なら幾らでもくれてやる、さぁ日本を創り直そうじゃないか!』 【静の早乙女】と呼ばれ、意思決定の英断に定評のある早乙女清照氏の参戦は、【街づくり】計画にとって願ってもない光明となった。 【早乙女】の資金援助により、現実味を帯びた街づくり計画は徐々に世論を味方につけ、続くように【天堂】、【真武湯】が【街づくり】に参加。 これにより計画はいよいよ決定的なものと相成ったのである。 日本人は大流に弱い。【御三家】の参戦が呼び水となり、日本国内の企業はこぞって【街づくり】に投資を始めた。 カネは人を誘い、ヒトはカネを導く。 加速した螺旋は止まらない。 気づけば海外からの研究開発機関や世界的な多国籍企業も行政特区に注目を始め、信じられない程のカネが、ヒトが、情報がこの【街】に集まった。 そうして出来上がったのが、日本の一都市でありながら、都市という規格を完全に逸脱した存在となった異質な場所。 行政特別区域【鞍柘市(くらつし)】。 俺達の住まうこの【街】の名だ。      
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