【第二話】

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「…………」 予想していたとはいえ、いざ真正面からその言葉をぶつけられると、反応が鈍るものだ。 「沢木さん。この数日間、失礼ながら貴方のことは監視させて頂きました。貴方は今、鴉麻万凶に脅され、無理矢理匿うように命じられているのでは? だとすれば、一刻も早く、奴から解放されたいと思っているのでは?」 「…………」 「我々と貴方の利害は一致しています。ならば、これは双方ともに利益のある提案だと思うのですが」 「……俺は、小太郎君から解放されるため。アンタ等は、敵である小太郎君を葬るため。敵の敵は味方ってわけか」 「ご名答」 そう。 俺は今、小太郎君を匿っている立場。監視していたということは、江本も、その事実は既に知っていることだろう。 例えば、小太郎君の大好きな入浴の時。同じく大好きな就寝の時や食事中の時。 いくらプロの壊し屋とはいえ、そういった日常の中であれば、小太郎君に油断や気の緩みが生まれるかもしれない。 小太郎君相手に真正面から対峙するのは不可能と考え、"いつでも隙をついて寝首を掻く機会を持っている俺"を味方として取り込もうという魂胆か。 確かに、真正面からぶつかるよりも、いくらか成功率が高い。そもそも、化け物を相手にするのに正攻法なんざ必要ない。 「勿論、御引受け下さるのであれば、それ相応の御礼は支払わせて頂きます。私は、手段はどうであれ、鴉麻万凶を亡き者に出来ればそれで構いません」 「…………」 「どうかされましたか? 何か不服でも?」 「……いや、」 不服なんてない。 江本の言うとおり、この提案は俺にとっても利益はあるのだ。 「ではまさか、鴉麻万凶を庇うおつもりですか? 匿っている内、奴に情でも湧きましたか?」 「別に、そういうわけじゃない」 俺だって、小太郎君の存在には正直迷惑してるんだ。 主に、家計的な意味で。 あんな危険な子と生活を共にしろだなんて、拷問も良いところ。出来ることなら、一刻も早くなんとかしたい。 だからこそ、鷹峰会の要求を呑むのも、正直吝かではないと言える。 だけど。 けれども。 それでも。 「……悪いけどさ」 ふと視界に入ったそれは、ローテーブルの上に出しっぱなしにされていた江本の名刺だった。 それを手に取り、俺は真っ二つに引き裂いた。 「――返答はノーだ。断る」    
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