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◇ ◇ ◇
エレベーターの室内ランプが最上階を示し、停止した。ゆっくりと自動扉が開く。DDはもう目と鼻の先だ。
だだっ広いエレベーターホールを抜け、目当ての表札へ向かう。速さはアンダンテ。ゆっくり、なるだけゆっくり。
一歩足を動かす事に萎む気持ち。俺の物臭な内心は、未だに文句を垂れていた。
“絶対、ロクな事にならねぇよ、帰っちまおうぜなぁ”
激しく同意だが今は無視。やりたくないことはやらなきゃならないのが社会なのだ。
【01112】
【DD】
金色のプレートに記された禍々しいその名。
胃がキリキリと痛む。
嫌いな人間と会うというのはそれだけで拷問のようなものだ。DD。酷薄で悪質なるDD。自制心を緩めればたちまちずらかろうとする心と体を無理やり抑えつけ、一度息を整える。
「すーっ、はーっ」
落ち着いた? 落ち着いた。
OKさぁいこう。
逃げるな逃げるな逃げるな、念押しに三回唱えて前を見据える。
「…………よし」
俺は勢い良くインターフォンを押した。
ピンポーン、とお決まりのチャイムが鳴り響く。
「……………」
一呼吸、二呼吸、三呼吸。
物音が聞こえたのは丁度四呼吸目の事だった。
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