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「んっ……?」
ポケットからの震動。俺は携帯電話を手に取り、画面を見やる。
【受信メール一件】
2/12 7:03
from DD
sub 今手が離せない
本文
鍵は開いているので勝手に入りなさい
―――――――
「手が離せない、か」
手は離せないがこんなメールを打つ余裕はあるらしい。成る程、随分と忙しそうだ。
舌打ちしつつレバー型のドアノブに手をかける。取っ手部分を上から下へ。引く動作とお邪魔しますの挨拶を重ねて済ます。
オープン・ザ・ドア、出迎えてくれたのは玄関のシーリングライト。周囲に無駄な装飾は無く、楕円形の照明からは、乳白色の光がしずしずと輝いている。
俺はスニーカーを脱ぎ、チェッカー盤柄の玄関マットに足を着けた。
室内の快適な温度に全身が喜ぶ。暖かい。まるで別世界だ。DDへの反抗心とは裏腹に身体はこの場所を受け入れていく。暖房は卑怯だ、本当に。
ぐうぅっと不様に腹が鳴る。さっきから鼻腔をくすぐるこの香りは何だろう? 甘くて芳醇な良い匂い。そういえば、昨日の夜から何もつまんでなかったっけか。なんて今更。
とりあえず発生源と思しきリビングへわだちを拾う。
長い廊下を越えていく。最奥部の戸口。予め少し開いていた引き戸を右へやる。
「いらっしゃい」
「…………おう」
広大な居間の一画に彼女、DDはいた。
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