【第一話】

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『拙文が世の目に触れた時、恐らく私は死んでいます。機雷の息のかかった者の仕業か、若しくは父自ら手にかけるか、その辺りは殺されてみてからのお楽しみと言った所ですが、ともあれ私は死んでいます。私は機雷フーズに殺されました』 山瀬克己の『遺書』が見つかったのは二月十四日。そう、あの砂糖とカカオによって人間の価値がランク付けされる忌々しい日の事である。 思い出したくもないバレンタイン当日。俺の成績はチョコレート六十個。その内の九割五分が男色のボディビルダーからの寄贈(しかも全部手作り)という類い希なる不名誉な記録を残し、DDを哄笑させたのはカカオ百パーセントのトラウマだ。蛇足として俺があいつからチョコレートを頂いた事、そしてその『チョコレート』が乱雑にカカオを塗りくっただけの小石だったという事も記しておこう。 『滂沱して味わいなさい』 小石の味は苦かった。 そんな風にして俺が地獄の裁きを受けている傍らで、彼の意志は警察に届けられた。 粉飾決算、インサイダー取引、度を越えたホールドアップ問題にヤクザとの癒着……。鞍柘の警察署に投函された長大な遺書には、機雷フーズの暗部が克明に綴られていたらしい。 当初は愉快犯の線も候補に挙げられたものの、筆跡や本人しか知り得ないような情報の数々、そしてそれらを裏付けるデータが同封のUSBメモリに残されていた事などから、直ぐに事件として昇華されたそうだ。 そこから先はいつものように。株価の暴落、マスコミの洗礼、警察の家宅捜査etc……。悪さが露見した企業の末路なんざいつの時代も似たようなもんさ。 一枚の手紙で大企業が飛ぶ、いやはや怖ろしい話である。 「っと」 ジーンズのポケットがざわつく。携帯を取り出し、着信を確認すると案の定四番目のアルファベットが。 「なんだDD?」    
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