【第一話】

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『ハーイ京介。バレンタインのお返しはまだかしら? 美味しいベルガモットが冷めちゃうわ』 聞き慣れた主の声はいつも通りに良く喋る。というかお返しって何だよ? それを言うなら 「仕返しの間違いだろ。残念ながら小石に付けるカカオが無い。付け足しておくと金もない。はっ、たかる相手を間違えたな」 『あらどうして? 先の仕事であなたにも幾分余裕が出来たんじゃない? ギャンブルでもやらない限り、ホワイトデーの贈り物ぐらいわけないでしょう』 痛いところをついてきやがる。 「……【視て】なかったのかよ?」 『最近はやたらと忙しくてね。フォーラムでの会議とか管轄先の経営とかまぁ色々と。だからあなたばかりにかまけてもいられないのよ。ごめんなさいねダーリン』 「ふぅん」 などと相槌を打ちつつ、俺は別の事を考えていた。 今日は三月十四日。世間をのさばるホワイトデーなぞという退屈な祭典はさておいて、今日は。 「今日はあの日だっけか」 『京介の割には良く覚えていたわね。そう、あの日よ』 やっぱりあの日か。んでもってこのタイミングでの着信。あぁそうかいDDよ。 「俺はどこに行けば良い」 『蕗場公園を適当に散策しなさい。きっと素敵な女性に出会えるわ』 「そりゃあ楽しみだ」 麗らかな春の陽気と見渡す限りの青い空。こんな日の午後は良い女とのデートに限るってもんだ。 『それじゃあ京介』 「あぁ」 一丁ナンパといきますか。
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