【第一話】

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――judeccaという組織は成果主義者の集まりだ。 仮に互いを相反し合う依頼が舞い込んだとして、組織がどちらを優先するかは考えるまでもない。 judeccaはより儲かる側に力を貸す。 今回の事件がまさしくそれだ。DDから仄聞した話が蘇る。 発端は一月の末日に遡る。機雷フーズは法外な値段を携えてjudeccaを訪れた。依頼内容は山瀬克己の殺人。暗部を知る男の口封じとしてjudeccaの裏サービスに目を付けたのだ。 金さえ払えば何でもやるのがjudeccaだ。機雷フーズ側からの依頼を断るはずもなく、彼らは山瀬克己の殺害を決めた。 まもなく山瀬克己は殺される。彼が現れたのはそんなある日の事である。 『機雷フーズの暗部を喧伝したい。どうか力を貸してください』 山瀬克己その人だった。 運命のイタズラか、山瀬克己は自身の正義の為にjudeccaを頼ったのだ。 一方は情報の暴露を望み、もう一方は情報の封殺を頼む……相反する願い、judeccaがついたのは大企業ではなく、彼個人だった。 『空売りという投資手法をご存知かしら?』 二月十三日。仕事の手順を確認していた時の事。アールグレイを口に湿らせたDDが概説していた話だ。 『空売りっていうのはね、証券会社から株を借りて売却し、その株が値下がりした時点で買い戻す事で利益を得る投資方法の事を指すの。株価の下落が予測されるときに使う手法で、値下がりした際に買い戻すことで、その差額が利益となるわけ』 空売りとは株価の下落を利用して儲ける方法の事らしい。 つまり株価の下落が予めわかっていたとしたら、確実に儲かるというわけだ。 山瀬克己の情報は、一部上場の大企業を滅却する代物。コレが世に広まればどうなるか、judeccaの選んだ結論は皮肉にも“正義”のカードだった。 機雷フーズから法外な依頼料をふんだくった上で、山瀬克己の正義を使う。フィナーレは機雷フーズの暴落と満を持しての空売りで。 そう、山瀬克己の遺書を届けたのは他ならぬjudeccaなのだ。
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