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『京介、あなたの仕事は“殺人”よ。機雷フーズと警察に見せるための殺人ショーを行ってもらうわ』
あの倉庫での格闘は、室内に設置された無数のカメラによって撮影されていた。
俺が山瀬克己と戦い、剣戟闘争の末打ち倒す事は、当初から定められていた事だった。
誤算だったのはシナリオを熟知していた筈の山瀬克己が全力全開で立ち向かってきた事である。おかげで予期せぬ苦戦を強いられたものだ。
そして殺陣の末の殺人。
俺は臥した山瀬克己に警棒を振り上げて、彼の顔面に添えた血糊の固まりをぶちまけた。それで俺の仕事はお終い。全てはヤラセのお芝居だったってわけさ。
気絶した山瀬克己の身柄は組織の後処理班によってDDの懇意にしている闇医者の元へと搬送された。
そこで彼はある手術を受ける。
容姿を変え、指紋を変え、性別すらも変える外科手術。彼は彼女に転換し、そうして今日三月十四日、無事退院を迎えたのだ。
「なぁアンタ」
隣の彼だった彼女にそれとなく尋ねる。
「どうしてあんな喧嘩をふっかけてきたんだ」
当初のシナリオでは山瀬克己はロクな抵抗もせず、一方的に殺される予定だった。
にもかかわらず彼は抗戦した。ありったけの打突を叩きつけてきた。
「あの映像は警察の他に機雷側にも届けられたのでしょう」
「あぁ」
マスコミには伏せられているが、山瀬克己の殺害ショー(編集済み)は警察に届けられている。彼らが迅速な捜査に踏み切った一因はあの映像にある。そして無論第一の依頼人である機雷側にも届けられた。
「父は、山瀬香春は、山瀬克己という人間を良く知っています。彼を騙すためには本気の立ち回りが必要かと思いまして」
「そりゃあ杞憂ってやつだ。組織は機雷側に精巧に模した遺体を見せている」
山瀬克己の父であり、機雷フーズの頂点に座す山瀬香春は、息子の遺体を見定めて、満足そうに唸ったそうだ。腹が煮えくり返るような話。奴に一際重い罪が下ることを心より祈る。
「それにですね」
彼女は楽しそうに続ける。
「最後の最後くらい暴れてみたかったんですよ」
「派手に暴れてくれたよな」
「派手に暴れたかったんです」
わはは! あの時のようにどちらともなく笑い出す。
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