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「貧富の差が激しい程度。戦争がなくならねェ程度。病気で苦しむ奴がいる程度。悪質な犯罪が増加する程度。――その程度の取るに足らねェことだけで済んでるんだ。たったそれだけ。それでも世界は回り続ける。それでも人間は生き続けてる。充分過ぎる程に素敵じゃねェか。もっと喜ぼうぜ」
「その程度って……」
「そもそも、人間なんて傲慢な生き物が、まだ絶滅してねェのが奇跡なんだ。そんな奇跡、神様くらいしか実現不可能だろ?」
「…………」
まさか、本気で言っているのか……いや、わざわざそんなことを問わなくとも、答えは分かり切っている。
カラスマ コタロウ
――鴉麻小太郎。
彼と出遭ってから、まだ小一時間しか経っていない。
だからこそ、俺は、彼のことなんて何も知らない。
そう。知らない。
けれども、分かる。
知らないけれども、分かる。
鴉麻小太郎という少年は、こういう人間なのだと。
「つまり小太郎君。君と俺では、考え方というより世の中の捉え方が違うってことか」
「わざわざ分かりやすくリピートしないでくれよ、恥ずかしいぜ。……だってそうだろ? おにーちゃんが今の世界をどう見てるかなんて知らねェけどさ。神様いてくれるから、かろうじて世界は続いている。かろうじて、人間は存在できている。オレ達は、いつも見守られてんだよ。じゃないと、今頃地球なんて消滅してるぜ」
「屁理屈だ」
「理屈が通じないのは人間だろ? 万人を幸せに導いてくれる神様の力が追い付かねェ程の勢いで、世の中をダメにしてる。そいつが人間って生き物だ」
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