【第二話】

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  ◇  ◇  ◇ とりあえず。 結論から言うと、一時間前、俺は"殺人事件を目撃した"。 とんでもなく突飛な説明になってしまい、非情に申し訳ない限りだが、事実であるのだから仕方がない。有りの儘に語ろう。 冬真只中のせいか、凍える程に冷え切った真夜中。人気のない夜道。薄暗い街灯の下。 「――よぉ。こんばんは、おにーちゃん」 何の前触れもなく。 一切の予兆も無く。 僅かな筋書きすらも書かれず。 "血まみれで横たわる男性"の傍らに、同じく血まみれで佇んでいた一人の少年に――俺は運悪く出くわしてしまったのである。 「…………」 口から白い息が漏れる。 いや、まぁ、絶句したね。 当然だ。 その少年が、親しい隣人よろしく俺に挨拶してきたことにも驚きだが、それ以前に殺人事件だぞ。殺人事件。 あのクソッタレの悪魔、DDのもとで奴隷のように労働に勤しんでいる俺だ。 こんな異常事態に遭遇することは珍しいことではないが、それでも決して慣れるものではない。 "この区"に足を踏み入れている以上、ある程度の覚悟はしていたが、それでもいざ対面すれば、驚くもんは驚くわけで。
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