【第二話】

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嫌悪を込めた視線をぶつけてきた少年だったが、ふいに彼は『でも、まぁ、』と呟き、肩を竦めた。 「確かに――そうだな。おにーちゃんの気持ちが分からないでもない。おにーちゃんは関係ないもんな。見ず知らずのガキに迷惑をかけられたら、たまったもんじゃねェよな、うん。そうだな、うん」 「何だ急に」 「あー、いやいや。何も言わなくていいぜ、おにーちゃん。分かった。アンタの気持ちは、十二分に伝わったからよォ」 そう言って。 再び少年は、アスファルトに横たわる男性を蹴り飛ばした。道に転がる邪魔なゴミをどけるかのように。容赦も感慨もなく。 「悪かったな、おにーちゃん。実に不快な想いをさせたこと、全身全霊心をこめて謝罪するぜ。すみません。ごめんなさい。申し訳ありません。――さぁ、ホラ、細やかな償いではあるがこうして道は空けた。是非とも遠慮せずに通ってくれよ。そんでもって今見たことは忘れればいい。忘れるのが無理なら家に帰ってからゆっくり警察様に電話をかけてみるのもいいかもな。ひひっ」 「…………」 「何にせよ、この時この場所で、おにーちゃんは何も見なかった。そしてオレも誰にも見られなかった。それでいいじゃねぇか。万事解決だぜ」
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