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「ん? なァんだ」
少年が、意外そうに肩を竦める。
「――こんな"異常"を目撃したってのに、妙に落ち着いてやがるからよォ。てっきり、自分が今置かれている状況の把握すらも出来ねェ馬鹿かと思ってたんだが――違うのかよ。期待外れだ」
「……生憎、こちとら悪魔直属の奴隷野郎でね。滅多なことじゃ取り乱したりはしない」
「そうかそうか。おにーちゃんも、"こっち側"の人間ってわけか」
―――人は見かけによらねェな。
少年のその言葉が耳に届いた次の瞬間には、彼は俺の視界から姿を消していた。
「な」
呆気にとられたのも束の間。
気が付けば俺は、固く冷たいアスファルトに顔面から押し倒されていた。
ゴリゴリと頬が削れる音が響き、目の前を閃光が走る。
マジか。
「――ってことで、ちょっくら情熱的に押し倒してみたけれど、どうだい、おにーちゃん? 興奮したかい?」
ドン、と背中に圧迫感を感じ、少年の声が上から降ってくる。
……こいつ。
「……人の背中に土足で踏み込んでくるなよ」
「おいおい、何言ってんだ。人の背中と頭は、踏みつけられるためにあるんだろ?」
聞いたことねぇよそんな格言と文句を言ってやりたい気持ちはあったが、それよりも、拍手を送りたくなる程に実に見事な手際だったな。
自分が何されたのか、さっぱり分からなかった。何も分からない内に、地面に、倒されてた。しかもうつ伏せに。
こんな荒業、余程の技量がないと出来ないだろう。
やはりこの少年、只者じゃない。
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