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とはいえ、決して、暴力が蔓延る【南区】が荒廃しているというわけではない。
裏社会には裏社会なりの秩序やルール、守るべき決まりがあるため、それらが抑止力となり、基本的には人々が暮らす【街】として問題なく機能している。
悪人が善人を装うかの如く、表向きには、それなりに平和で穏やかな街という仮面を被っている。
だからこそ、先ほど電光掲示板に表示されたように――殺人事件が起これば警察が動くし、捜査も行われるのも当然。
だが、その捜査のメスの斬り込みは、極めて薄くならざるを得ない。
何故なら、所詮は"単なる一件の殺人事件"に過ぎないから。
この区には、もっと暗く危険なモノが渦巻いている。
目立たないだけで、暴力団同士の小さな小競り合いは行われ、それにより死者も出る。
この【南区】の警察は――正体不明の犯人を、懸命な捜査で炙り出している余裕など無いのである。
よって、今回の小太郎君の殺人事件も、軽く形だけで捜査されて終わりになるだろう。
捜査したけれど、見つからなかった。仕方ない、さぁ、次の事件だ。
と、流れに流され、埋もれていくだけ。
既に逃亡済みの俺や小太郎君のことなんて、すぐに警察の眼中から外れるに決まってる。
このような国家権力のある意味無責任な行動方針に、賛否両論はあるだろう。
しかし残念ながら俺には、こう言うことしかできない。
これが【鞍柘市】であり、これこそが【南区】なのだと。
そして余談ではあるが。
この理不尽さを買われ、【南区】は、かの有名な7つ言葉の一つを取って、こう呼ばれている。
【憤怒の区】と。
――――。
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