【第二話】

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とはいえ、決して、暴力が蔓延る【南区】が荒廃しているというわけではない。 裏社会には裏社会なりの秩序やルール、守るべき決まりがあるため、それらが抑止力となり、基本的には人々が暮らす【街】として問題なく機能している。 悪人が善人を装うかの如く、表向きには、それなりに平和で穏やかな街という仮面を被っている。 だからこそ、先ほど電光掲示板に表示されたように――殺人事件が起これば警察が動くし、捜査も行われるのも当然。 だが、その捜査のメスの斬り込みは、極めて薄くならざるを得ない。 何故なら、所詮は"単なる一件の殺人事件"に過ぎないから。 この区には、もっと暗く危険なモノが渦巻いている。 目立たないだけで、暴力団同士の小さな小競り合いは行われ、それにより死者も出る。 この【南区】の警察は――正体不明の犯人を、懸命な捜査で炙り出している余裕など無いのである。 よって、今回の小太郎君の殺人事件も、軽く形だけで捜査されて終わりになるだろう。 捜査したけれど、見つからなかった。仕方ない、さぁ、次の事件だ。 と、流れに流され、埋もれていくだけ。 既に逃亡済みの俺や小太郎君のことなんて、すぐに警察の眼中から外れるに決まってる。 このような国家権力のある意味無責任な行動方針に、賛否両論はあるだろう。 しかし残念ながら俺には、こう言うことしかできない。 これが【鞍柘市】であり、これこそが【南区】なのだと。 そして余談ではあるが。 この理不尽さを買われ、【南区】は、かの有名な7つ言葉の一つを取って、こう呼ばれている。 【憤怒の区】と。 ――――。
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