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「こ、小太郎君……」
なんだろう、この絶望感。
別に正気を失っていたわけじゃないのに、まるで、一気に現実に連れ戻されたかのような。
「……んだよ、おにーちゃん。オレ、今パンツ一丁なんだけど。寒ィんだけど」
「ごめん。あのさ、ちょっと電話しても良い? 出来れば今すぐに。早急に」
「電話だァ? もしかして、今更警察に電話でもしようってか? 好きにしてくれ。オレは今は電話より風呂だ。何よりも入浴だ」
「ありがとう」
浴室の扉が閉まったのを確認すると、大きく深呼吸。
核兵器の発射スイッチを押すかのような緊張感を抱きつつ、通話ボタンを押した。
「……もしもし」
『ハロー、京介。貴方、なかなか面白いことに巻き込まれてるみたいね』
携帯電話の向こう側からは、案の定、聞きなれた悪魔の声。
心なしか、普段より幾分か弾んでいるように聞こえる。それが、俺の気持ちを更に沈ませた。
「……視てたのかよ」
『えぇ、勿論。貴方の動向を監視することが、最近私の趣味になりつつあるわ。今日から観察日誌でもつけてみようかしら』
「気持ち悪ぃこと言ってんじゃねぇぞ」
奴隷と雇い主。
それ故に発生する『プライベートが筒抜けという状況』にはある程度慣れたが、それでも平気というわけではない。
その苛立ちが自然と口調に現れ、強い語尾になってしまった。
しかし、だからと言って、DDが気圧された様子などはない。
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