【第一話】

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一転。変貌。 既にDDの相好に笑みはない。そこにあるのはヒトを見下し切った憮然の怜悧。 良い子ちゃんごっこで鬱憤が溜まったのか、よそ行きの外装を解いたDDは、いつにも増して尊大だ(当社比三倍)。 俺は? 俺はムッとしていた。 何故だろう。ちょっと前までのお人形スマイルをあれ程嫌悪していた癖に、いざ素の感情が挨拶するとやっぱりしゃくに障るのだ。 DDの全てが気に入らないのか、はたまた彼女の端々に滲み出る見下しオーラに業腹なのか……後者だろうな。クソの役にも立たないプライドが、一々腹を立てるのだ。全くもって救えない。 下唇を噛み、脳内に痛みを送り込む。落ち着け京介。短気は損気だ。冷静になれ。クールになれ。ドライになれ。 「ディ、DDさん? よろしければ私めのどこが愚かなのか仰って頂けます? 法律を破るのはいけないことですよねぇ。ひょっとして刑法199条をご存知無いのかな?」 「喋り方も気持ち悪ければ頭も悪いなんて本当に同情するわ。良い? あなたの意見は“罪”であって“悪”ではないの」 「うっ……」 ハッと気づく。酷い言われようだが確かにその通りだ。 “殺人は罪である”と“殺人は悪である”では意匠が微妙に異なる。 「“罪”はルール―――共同体が決めるもの、“悪”は価値観が決めるものって事か」 「そう。“罪”は“悪”じゃない。“悪”の多義性を共同体レベルまで具体化させた手段なの」 “罪”そのものは共同体内の違反に過ぎないのであって“悪”そのものではない、整理してみれば至極当然のロジックだ。 荒廃した独裁国家で“罪人”として弾圧される悲愴の民が、果たして“悪人”だろうか。この場合の“悪”はルールであり、国家であり、システムではないのか。     【罪≠悪】 “罪”は“悪”じゃない。
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