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「お前が心の奥に隠していても…私は知っているのだ。
その男と交わした約束。
まさか、その通りにするつもりではないだろうな?」
震え続ける体をバベルの方へと向ける。
私の瞳に映るのは草色に染まったバベルの肉体。
充血して真っ赤になった眼で私の姿をとらえるバベルには、もう昔の面影はなかった。
「私を受け入れ私を愛したのは…唯一人、お前だけだ。
いつまでも私の傍に居ると言ってくれただろう?
あれは偽りだったのか?」
バベルの言葉に私の心は捨てた筈の躊躇いを甦らせてしまう。
「他の者には無いこの腕は、誰よりも沢山の事を成す事が出来る証だと…。
自由に出来れば、誰よりも沢山の事を成す事が出来ると…。
それは奇跡だと…。
そんなお前の言葉に心動かされ、お前の言葉に応えようと私は考えた。
その方法を探った。
過酷な環境の天空の庭でも力強く生き続ける植物たちの力を借り、これだけ自由に扱えるまでになったというのに…。」
そう。
バベルの体を被う植物達は纏わり付いているのではなく、肉体に寄生し共存しバベルに力を与えているのだ。
バベルは私を捕らえようと、人とは思えないスピードで私を押さえにかかる。
何度も腕を伸ばし掴みかかるバベルと必死で逃れようとする私の間にティナカが割って入る。
二人の剣先がバベルの体を何度傷つけようと、彼は痛みに構うことなく私を捕らえることに執着していた。
その姿はバベルの孤独な心そのもの。
「その男が…。
お前が奇跡と呼んだ腕の一本を切り落としたのだ!」
バベルは私の剣を素手で鷲掴みし、剣を離すまいとする私の体ごと思い切り投げ飛ばした。
私の体はバベルの後方へと投げ出され背中から石の床に叩きつけられた後、なお勢い余って石の床を滑っていった。
「あぁぁぁっ!」
石の床で腕や背中を擦られる痛みに絶叫しながら、私の体はそのまま人工池の中へと落ちた。
体を包むヒンヤリ冷たい浮遊感と天上に輝く光。
まるであの時と同じ。
66層から飛び降りた後、目覚める直前に見た水に沈む夢のようだった。
夢と同じに私は勢いよく水中から上半身を起こし目一杯空気を吸い込んだ。
その時、水底に着いた手のひらが何かゴツゴツした物に触れた。
しかし、それが何なのか考えている時間など無い。
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