60人が本棚に入れています
本棚に追加
この塔を離れ、全てを忘れたままの旅路を行く時…。
その道程を守る為にと叩き直された筈の太刀。
いつしか真実を知りその道程を引き返し、愛する者を呪縛から解き放つ為に覚悟をその太刀に忍ばせた。
太刀はその愛する者の心臓を貫いていた。
「なぜ…。
ハル…。」
消え入りそうな声と頬を伝う一粒の涙を最後に、バベルの命は尽きた。
「必ず…。
あなたを…探しだす…。」
バベルの心臓を貫いた剣は共に私の肺を貫いた。
少しの間だけ、私にはまだ微かに息があった。
が、バベルを葬る為に自身の体を犠牲にした私の命が終わるのももうすぐだろう。
私の体はバベルと共に地に崩れ赤い海に沈んだ。
その光景に愕然として立ち尽くしていたティナカがゆっくりと歩み寄り、身を屈め血溜まりの中に膝をつき、そこに横たわる私の手を取り優しく握った。
「ティ…。
ごめ…ん。
帰ろうって…。
約束…。
叶え…な…。」
流れる血を止める術もなく、私の傍で永遠の別れを悟り言葉無く涙を流していた。
私はもう生きられない。
他人の命を奪ってまで生きてきた偽りの人生もこれで終わるのだ。
ただ深い眠りに誘われながら意識は遠のいてゆく。
ティナカの姿もぼんやりとかすみ、だんだんと彼方に消えてゆく。
声も音も…もうよく聞こえない。
そうだ…。
私が…夢の中のハルシュカが死んだら現実の私はどうなるのだろう。
ぼんやりと夢を自覚し現実を思い出しながら、私のハルシュカとしての命は最後を迎えた。
最初のコメントを投稿しよう!