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あれは言葉では上手く言い表せないけれど、所謂――神のお導き――って奴なんだろう
「……一本!」
沸き上がる歓声を何処か冷めた目で見詰めながら、私は表彰台から降りて早々に会場を後にする。
いくら勝ったところで所詮何の意味もない。
私の名前は、伊達葵
あの「伊達政宗」で有名な伊達家の二十代目正当後継者だ。
この生い立ちのせいで幼い頃から、ありとあらゆる知識を叩き込まれてきた。
剣術から茶道に華道…今までやらされた習い事を全部数えたら多分両手じゃ足りないんじゃないかと思う。
別に剣道や勉強、勿論今までやって来たモノを否定する気はないし、みんなそれぞれにやり甲斐があるから楽しい。
特に剣道は別格だ。
技を究めたくて毎日練習に明け暮れていた甲斐が会ったのか、ようやく道場の師範から免許皆伝をもらうことが出来たのだけど、両親はあまり喜んでくれなかった。
きっと、これくらいは当然。そう思っているのだろう。
今日の試合に限っては応援にも来てくれない。
「…何の為に生きてるのかなぁ…」
生まれた時から決まったレールの上しか歩く事を許されなかった。
悪いとまでは言わなくとも少し寂しさを感じる。深い溜息を吐きながら、玄関の扉に手をかけようとした時不意に頭の中で、聞き覚えのない声が弾けた。
――裏手の蔵に来い…――
誰かいるのだろうか、と辺りを見回すも人の気配はない。
不審に思いながらも、導かれるように蔵へ向かう。
照明を付けて中に入り辺りを見回す。
もし誰かの悪戯だとしたら、持っている木刀でいつでもぶん殴れる準備をしておく。
木刀を構えながら少しずつ奥へ進んで行くと怪しげな古井戸と、そこには本来あるはずのないものがあった。
「…こ、この太刀って……何でこれが此処に……」
伊達家に代々伝わる家宝の一つ
何故家宝がこんな所にあるのかは分からないが、あるべき場所に戻そうと太刀を手に取って引き返そうとした刹那――
ドンッ 「……え?」
不意に背中を強く押され、気が付けばあまり背丈のない井戸へ真っ逆さまに落ちていった――
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