死にたがり

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会社一筋の父さんが、何を思ったのか、いきなり家族で旅行に行こうと言い出した。 勿論、今まで家族全員で旅行に行った事など一度も無い。 母さんは少し驚いた顔をしていたけど、すぐに状況を把握し、小さい声で一言 「旅行なんて新婚以来ね♪」 と言って、嬉しそうな顔で笑っていた。 僕はその頃8歳になったばかりで、いまいち良く分からなかったが、きっと楽しい事に違いないと喜んだ。 僕と年子の妹は 「お出かけするの?」 と引っ切り無しに母さんに言いながら、少しの不安と期待で胸を膨らませていた様だった。 僕はその"りょこう"とやらが、待ち遠しくて仕方なかった。 そこに行ったら、父さんとキャッチボールをしよう。 最近少し球が速くなったんだと自慢してやろう。 そんな気持ちで一杯だった。 でも、その楽しみにしていた"りょこう"は、僕が想像していた事とは違った。 その家族旅行を最後に、僕の中から家族は完全に消え去ってしまったのだから。
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