8人が本棚に入れています
本棚に追加
【朝の邂逅】
<01>
朝、なんだか目が冴えてしまったので早く家を出た。いつもの停留所。昨日よりも澄んだ寒空を眺めながらバスを待つことだいたい十分。
停留所にサイがやってきた。
「…………」
サイは足を折り、姿勢を低くする。乗れって事だろうか。とりあえず角に跨ぐように座った。
「お客さん、前が見えないし鼻が痛いです。背中に乗って下さい」
サイが喋った。サイって喋るのか。喋って良いのか。
「お客さん?」
「あ、すいません」
一度降りてから、背中に乗り直す。サイは立ち上がると、最初はゆっくり、次第に速く走り始めた。
「……案外、速いんですね」
「まぁ、ちょっと本気出せばこんなもんですよ」
たはは、と笑うサイ。
「それにしてもお客さん、朝早いんですね。いつもこの時間は誰も居ないんですよ」
「あぁ、明日は文化祭なんで」
「ほぅ、それは楽しそうだ」
たはは、とまたサイは可笑しそうに笑った。
<02>
走り始めて五分、不思議なことに気付いた。いつの間にかサイは僕の知らない道を走っていた。
「要は、タイミングなんです」
サイは言う。
「この無限に続くような有限の時間の中、お客さんと私が出会ったように、一つ一つのタイミングは奇跡なんです。
そう考えると、今生きていること、今、何か出来ることがあること。それも奇跡と呼ぶことが出来ます」
遠くに、僕の家が見えてきた。
「さぁ、まずは何時もより早く起きてみましょう。そして新たなタイミングを掴みに出掛けましょう。それが出来るのも、一つの奇跡なのですから」
<03>
という所で目が覚めた。
「…………」
何時もより早く起きてしまった。あと三十分、寝ていられる。
……いや、早く起きよう。
そういうわけで早く家を出た。いつもの停留所。昨日よりも澄んだ寒空を眺めながらバスを待つことだいたい十分。
停留所にバスが来た。
何となく運転席の近くに座る。
「お客さん、朝早いんですね。いつもこの時間は誰も居ないんですよ」
「あぁ、明日は文化祭なんで」
「ほぅ、それは楽しそうだ」
たはは、と運転手は可笑しそうに笑った。
最初のコメントを投稿しよう!