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【目線の先】
私の学校は、何故か十一月下旬に文化祭を行う。意味が分からない。寒いじゃない。
明日から文化祭が始まるので、今日は一日中、それの準備に費やされる。そして、明日は校内の生徒だけで、明後日は校外の人々を招いて文化祭が行われる。
私のクラスでは、小さなアクセサリーを売ることになっている。
「明日どこか回る?」
ホッカイロを握り締めながら何か書き物をしている彼女に話しかける。彼女は街で有名になるほど、夢に出るほど綺麗な子だ。
「ううん、ずっと教室にいるよ」
「つまらなくない?」
「平気」
できた、と言って彼女は一枚の紙を私に手渡す。
「可愛いでしょ?」
タヌキ、ウサギ、老夫婦のイラストとともに、受付という文字が大きく書かれている。
「……カチカチ山?」
「うん、机に張っておこうかと思って」
ニコニコしながら彼女はそれを、テープで机に貼り付けた。
明日、ずっと教室に居ると言った彼女。この子はもしかしたら、展示を一緒に回る相手がいないのかも。いつも物静かだし。何かと敵を作りやすいのかも。
「明日、私と一緒に回らない? 部活の友達に断られちゃってさ」
試しに、聞いてみた。
「ううん、私は教室にいたいな」
ダメだった。なんでこう、頑なに教室から動かないのかな。
「もしかして、私のこと嫌い?」
「違うよ」
うふふ、と彼女は小さく笑う。それだけで私は彼女に目を奪われる。
「あれ」
彼女がピシッと指を指す方には、雪降る校庭。その真ん中に佇む雪だるま。
「明日はずっと、あれを見ていたい」
「ずっと? あれを? なんで?」
まさか彼女には、あれを一日中見ていられるほどの感性と忍耐が備わっているのか。
「私ね、物事の終わりって、すごく綺麗だと思うの。さっき一年生は長い時間をかけてあれを作ったのに、崩れるのは一瞬。それは、すごく切なくて、すごく綺麗。
私は、その一瞬を大事にしたい」
「終わってしまう、その一瞬を?」
「終わっちゃうから、その一瞬を」
彼女は頬杖を付き、緩やかに微笑んだ。
「……私も明日、ここにいていいかな?」
「うん、いいよ。退屈じゃない?」
「大丈夫」
学校の展示より、雪だるまが崩れた一瞬、終わってしまったその一瞬、彼女がどんな顔をするのか、すごく見てみたい。
……毎晩夢に出てくる彼女の、知らない顔を見てみたい。
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