ロック

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「ロック」   空から降る声に導かれて視線を上げると、二階の手すりから顔を覗かせる男性と視線がぶつかる。   「案内したげて」   その男性がフイッと顎をしゃくる感じで階段に向けて頭を振ると、ロックは「ワン」と小さく答え、私の前を歩いた。 楽しそうに揺れる尻尾を追いながら階段を上り切ると、ロックは男性の足元をくるくると回っていた。   「サンキュー、ロック」   そう言って腰を落とし、ロックの頭を撫でながら、視線を上げてこちらを見やる。 半袖の無地の白いTシャツに、くすんだ空色のGパン。 Tシャツの左下には黒と白の「関係者用」のステッカーが貼られていた。   「こんばんわ」   低くて、落ち着いた声。 大きな瞳が、目がほんの少し細くなる。 ゆるくかけられたパーマが真っ黒の髪をやわらかく持ち上げ、印象を明るく見せた。   私は軽く頭を下げて挨拶に応じると、惹かれるように前に足を踏み出した。     重い扉を押し開けて中に入ると、中にはすでにたくさんの人がいた。 丸い背の高いテーブルにドリンクを置き、談笑している男女の姿。 部屋を囲むように置かれた長テーブルの上には、たくさんのグッズが並んでいる。 大粒の音が降る室内は真っ暗だが、背の高い天井にいくつか星のようにちりばめられた照明が、不便なく歩き回れる程度に辺りを照らしてた。      「ロックを会わせてあげられて、良かった」     そう言いながら、ステージ横の備付けのイスに座るよう勧めてくれる。 隣に座る久しぶりに見た彼は、以前より大人びたように感じて、なんだか目に毒で。         「呼んでくれはって、ありがとうございます」     ≪3月11日、被災地へ向けてのチャリティーライブすることになった≫   彼が以前から東日本の震災に関して前向きな行いをしていることは知っていた。   けれど今回そのメッセージとともに添付されたHPで宣伝画面を見たとき、私は息を飲んだ。 フライヤーの背景に載せられたライブハウスの写真の隅には、小首をかしげたロックが、先ほど見た≪おすわり≫の姿勢で座っていた。
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