第一話~捜索開始~

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「そうそう、気になる猫ちゃんがいるっすよ」 「うん」 「一週間前に見つけて以来、ずっと追いかけてるんすけど、なかなか心を開いてくれなくて……」 はぁ、と白がため息。その落胆を押し流すように水を飲んで、彼女は続ける。 「仲良くしたくて、今日も追っかけてたんすけどー。気がついたら、木の上にいて」 「降りられなくなったと」 「はいっす」 ……いや、どんだけ猫に夢中なら、知らない間に木に上れるんだろうか。なんかもう、怖い。 というか、それ以前に。 「猫と仲良くしたいって……どういう感じ?」 今一つピンとこないんだけど……少なくとも俺は、道行く猫を相手にお近づきになりたいと思ったことはない。 ただ、猫を気にして追いかける人という構図に、ふと一つの歌を思い出す。売れない絵描きと黒猫の歌で、絵描きが孤独な黒猫の友達になるって内容だった。昔はよく聞いてたなぁ……家に帰ったらCD探そう。 ともあれ。もしかしたら白にも、なにか理由があるのかもしれない。猫を気にする、真剣で深刻な。あの歌のように、劇的なシナリオが展開しそうな。 そんなほのかな期待を持つ俺に、白が寄越してきた答えはといえば。 「や、まー、可愛いからいっぱい撫で撫でしたいなー、ってだけなんすけど」 「……あっそ」 実に、無垢で無邪気であどけなく、何より、どうでもいい理由だった。期待から発生する興味が、一気に失せる。 「な、なんでそんな急に不満そうなんすか!私、なんか変なこと言ったっすか!?」 「や、別に?いいんじゃないの、うん」 「うぐぐ……なんか、歯にものが詰まったような言い草……い、言いたいことがあるならはっきり言ったらいいじゃないっすか!」 「動機がつまんない」 「ショック!予想以上にはっきり言われた上に、なんかこう、その落胆のされ方は理不尽な気がするっす!」 そんな白の叫びは、まぁ、確かにと思わざるを得なかった。勝手に期待してたのは俺だし。 「…………」 少し沈黙。それを埋めるための話題を求めてか視線がさまよって、止まった先は白の頭頂部だった。
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