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「釦は帰ってきたが……あの品を持っとる限り、青年とこの店の縁は切れんぞ」
いつの間にか、卓の上にはあの釦が置かれていた。
「しかし、おもろい子やったな」
「あたしも面白かった。ところで『あの子』の代償って何だったの?」
「可能性や。来世、人に生まれ変わる可能性」
それだけ常世のものが現世に干渉するのは大変なんや、と老爺は続けて、そばの煙草盆を引き寄せ、刻み煙草を丸めた。
紫煙が店の中を漂う。
「……窓開けてもいいよね」
「ええよ」
瀬里奈は煙管の匂いが好きではないが、老爺にとっては唯一の愉しみでもある。サンダルを脱いで板の間に上がり、雑然と置かれた物の合間を縫って、小さな窓を開けた。
何処からか、カタカタッ、と音がした。
「お、次の仕事やな。瀬里奈、そっちの奥から三番目の棚んとこやけんな」
「うん」
瀬里奈が箱に入った『それ』を取ってきて、卓の上に静かに置く。
もうじき、誰かの手に渡る品。これをどう使い、何を思うか。全てはその誰か次第だ。
「人と人。物と人。現世で織りなされる縁は実に、美しいもんや」
「そうかなあ。あたしにはよくわかんない」
老爺の隣に座り込んで、瀬里奈は口を尖らせた。
人と人。物と人。
それらを繋ぐ、見えない糸は確かにある。
ジリリリリン、と黒電話がけたたましく鳴り響いた。
「ふぁい、白紙委任堂。……」
――――――――Fin――――
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